【3487】 ○ 河合 薫 『働かないニッポン (2024/01 日経プレミアシリーズ) ★★★☆

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"ジジイの壁"問題と言うより、「働く」ということについて改めて考えさせる本。

働かないニッポン2.jpg働かないニッポン.jpg働かないニッポン (日経プレミアシリーズ)』['24年]

 本書によれば、「仕事に意欲を持っている社員は5%しかおらず、世界145位中最下位」であるとのこと。何が日本人から働く意欲を奪っているのか? 本書は、健康社会学者である著者が「働かないニッポン」の構造的な問題を、統計や会社員へのインタビューをもとに解き明かしたものです。

 第1章では、若者に焦点を当て、早々に「窓際族」を目指す新入社員や、「できれば仕事したくない」という20代後半から30代前半の社員が増えていることを、統計などから指摘しています。そして、若者が意欲をなくす背景には、彼らが社会構造を「頑張り損」ととらえていることや、「無難」に埋没したがることを挙げ、自分への「身分偏差値」に敏感になるあまり、"群衆の中に消えようとする"傾向が見られるとしています。

 第2章では、中高年に焦点を当て、いわゆる「働かないおじさん」を作った張本人は、大企業で社内競争に勝ち残った「スーパー昭和おじさん」ではないかとしています。彼らは、ジジイ化しやすく、ジジイとは、組織内で権力を持ち、その権力を組織のためでなく自分のために使う人たちの総称であり、その"ジジイの壁"が、中高年にとっての「働き損社会」の影にあるとしています。

 第3章では、なぜ働く意欲を失ってしまうのかを考察しています。そして、そこには、世界に類を見ない強固な階層主義のもと、「日本的マゾヒズム」という、上からの命令で、無理難題を押し付けられても、次第に理不尽が理不尽でなくなってしまい、逆にそれを望んでしまうような心理状態があるとしています。

 第4章では、その日本的マゾヒズムの呪縛からどう逃れるかを説いています。こでは、生きる力=幸せになる力としての「SOC」(Sense of Coherence=首尾一貫感覚)というものに注目し、SOCは個人だけでなく集団にもあって、それを高めることで相互に向上を促進するとしています。また、SOCは、「把握可能感」「処理可能感」「有意味感」という3つの感覚で構成されることを解説しています。

 第5章では、脱「働かないニッポン」のためにできることとして、有意味感を強くするための6カ条(1.普通を疑う、2.仕事は金のためだと考えない、3.仕事にやりがいを求めない、4.年齢を言い訳にしない、5.信頼されようとしない、6.愛をケチらない)をまとめています。

 「働かないニッポン」の背後にある日本的マゾヒズム、長いものには巻かれろ的思考、批判的精神を封じる階層主義など、ひとつひとつの指摘は目新しいものではないですが、読んでいて、働く人が将来に希望が持てないのも無理からぬことかと改めて思ってしまいました。多くの人が自身のコスパ・タイパだけを重視して、あたかも働いているフリをし、「死んだままの月曜から金曜」状態で仕事に埋没する人も少なからずいるというのが、タイトルの由来でしょう。

 "ジジイの壁"は高いながらも、そのジジイからの逃走を果たした会社員の例を引き合いに「労働」を止めて「働く」ことを提唱し、健康社会学という視点から「SOC」という概念を紹介しています。その第一歩として、「半径3メートル世界」への働きかけから始めてみようという結語は、多分に啓発的であるように思いました。

 Amazonのレビューを見ると、ストーリーに一貫性はなく、何を言いたい本なのかよくわからない、読んでいて頭が混乱するという評があり、多くの人がそれに賛同していました。自分も最初は、とっ散らかった感じで何が言いたいのかよく分からなかったです("ジジイの壁"というところに目がいってしまうというのもあった)。でも繰り返して読むと、"ジジイの壁"問題と言うより、「働く」ということについて改めて考えさせる本だったように思います。

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